【沼先輩の活動ブログ6】『胸いっぱいの愛を』


grown-up record of student

生徒の成長日記

2019/08/09

沼先輩

吹きすさぶクーラーの冷風を浴びながら、私は息を切らし、ずれた眼鏡をかけ直し、やっとのことで額ににじむ汗を手のこうでぬぐった。

 

駅の階段を駆け上がり飛び乗った車両は、朝の混雑をむかえ、重い空気に満たされていたが、そこに居合わせた者は一様に、わずかなひとときを精一杯自分のために費やそうとして、侵入者である私をすぐに意識の彼方に追いやっていた。

 

いや、むしろそうしてもらった方がこちらとしてもありがたい。落ち着いたところで朝の日課である、かかと上げ下げ運動を始めよう。この運動には基礎代謝を向上させる効果がある。

 

そう思った矢先、不意に視線を感じて顔を上げると、私の斜め前にいたサラリーマン風の大柄な男が、怪訝そうな顔つきでこちらを見下ろしていた。

 

男は吊革を握りしめ、マイスペースへの侵入を断固許さないタイプの仁王立ちをしており、私は目を合わせないようにしてやり過ごそうとしたが、どういうわけか男の粘着質な視線は容赦なく私を捉えて離さないのだった。

 

汗が頬を伝って流れていくのを感じて、今度は顎のあたりをぬぐった。

 

すると男は、贅肉のついた身体をよじり、肩掛け鞄の中から白い束のようなものを取り出すと、無言で私に差し出した。

 

それは飲食店で見かける紙ナプキンの束だった。男の鞄の中でどのように収まっていたのか知らないが、端の方が多少よれている。

 

これで汗を拭けということなのだろうか。気は進まなかったが、私は形式上それを受け取り、軽く頭を下げた。

 

で、その中の一枚をつまんで折りたたみ、とりあえずピタピタと額に押しあててみたのだが、それはどうも、あまり水分を吸い込まないタイプの紙ナプキンだった。

 

男の方を見ると、すでに私に興味を失ったのか、もうこちらを見ていなかった。代わりに、流れてゆく車窓の向こう、朝の光に乱反射する荒川の川面を見ていた。

 


 

 

この世界はイレギュラーだ。

 

時として、予測不能な事態に遭遇する。いびつな日常の中で、自らの軌道を正常に保とうとして、慎重にバランスをとり続ける。それが生きるということなのだろう。

 

であるならば、私はもう自分のイレギュラーを疑わないし、否定もしない。とってつけたような欠落の埋め合わせもしない。イーブンに、あるがままに生きてゆこう。

 

私がモアボーカル教室で八年かけて学んだことは、結局そういうことではなかっただろうか。日常の中から、ほんの少しすくいあげられ、そしてまた日常に戻る。そうやって喉の渇きを癒し、どうにかバランスを保ってきたのではないか。

 

これまでにも述べてきた通り、このブログは私の個人的なレビューだ。もちろん、あなたにはあなたのモアがあるし、それはいつでも、あなただけの特別なサムシングが待っているということだ。なにしろ、こんなにも私の心を掻き立て、掻き乱す存在なのだから。

 

半年にわたり、好きなようにブログを書かせてくれた校長と、全てのモアのスタッフに心から感謝します。私のことは嫌いでも、モアボーカル教室は嫌いにならないでください。

それではみなさん、Good luck & Good by!

四十代最後の夏、はじめました。

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【沼先輩】プロフィール

1969年、ロック年生まれ、ロック育ち。ロックなやつは大体友達。趣味はギター磨き。印刷業に従事するかたわら、日々ギターを磨いている。

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