【ミュージカル曲コラム】『ダンシング・スルー・ライフ / Dancing Through Life』ウィキッド ふたりの魔女 / Wicked 歌い方・歌 上達法
【曲名】ダンシング・スルー・ライフ / Dancing Through Life
【演目】ウィキッド ふたりの魔女 / Wicked
【ウィキッド ふたりの魔女 / Wicked:演目について】
ミュージカル『ウィキッド』は、1900年に刊行されたライマン・フランク・ボームの『オズの魔法使い』と1939年に公開された映画『オズの魔法使』を基に、1995年に刊行されたグレゴリー・マグワイアの小説『ウィキッド 誰も知らない、もう一つのオズの物語』を原作としたオズの魔法使いの“もうひとつの物語”。舞台版『ウィキッド』は作詞・作曲をスティーヴン・シュワルツ、脚本をウィニー・ホルツマンが担当し、2003年にブロードウェイで初演されて以降、世界中で愛され、上演され続けている。
映画版『ウィキッド ふたりの魔女』は舞台版を基に、監督を『イン・ザ・ハイツ』などを手掛けたジョン・M・チュウ、製作を『ラ・ラ・ランド』を手掛けたマーク・プラットが担当し、2部作に分けて公開された(前編:2024年公開、後編:2025年公開予定)。舞台のオリジナル楽曲はそのままに、映像美によって、ウィキッドの魅力をさらに深める演出となっており、キャラクターの内面や物語の背景がより丁寧に表現されている。
物語は、外見や能力によって偏見を受け続けるエルファバ(後の「西の悪い魔女」)と人気者のガリンダ(後の「北の良い魔女」)が学生時代に出会い、共に成長していく中で、政治腐敗や差別問題に焦点が当てられる。後の『オズの魔法使い』に登場するブリキの木こり、カカシ、臆病なライオン、空を飛ぶ猿たちの誕生秘話も描かれ、壮大な世界観、緻密なキャラクター描写、パワフルな音楽によって、観る者に「正義とは一体何か」といった善と悪の概念を問い直す現代の名作ミュージカル。
【曲について】
この楽曲は、前編の中盤でウィンキー国の王子フィエロがシズ大学へ転入してきた直後に歌われ、エルファバ・ガリンダ・フィエロ・ネッサローズ・ボックという主要な登場人物それぞれの関係性が大きく動いていく分岐点の役割をする曲。
軽快なスウィング調のリズムに乗せて繰り広げられるこのナンバーは、「深く考えず、流れに身を任せて楽しく生きていく」という自由奔放なフィエロの人生哲学が歌われるところから始まる。けれども、その裏には、社会の期待や抑圧に対するさりげない反抗や心の空白が垣間見える。
フィエロが周囲の学生たちを巻き込んでダンスパーティーを開催し、そこから登場人物たちの感謝・誤解が交差して、それぞれの恋愛・友情の関係が動いていく。
【歌唱ポイント、アプローチ】
この楽曲は、フィエロの「深く考えず、心配しすぎたりせず、流れに身を任せて、人生を踊るように楽しく生きていく」という人生観を表現することが重要です。歌い出し冒頭でフィエロの気取らないカジュアルさを演出するためには、ミュージカルのドラマチックな歌い方ではなく、音程通りに「話している」イメージで歌いましょう。正しい音程で歌えるようになったら、フィエロの気楽さを表現するために、スイングやグルーヴを感じられるようにリズムも意識して練習を。
フィエロが大学のみんなをオズダスト・ボールルームに招待するパートでは、自分の人生観に皆を引き込むように自信満々な様子を意識して、冒頭よりも少し大袈裟に歌うようにしましょう。しかし、終盤に向かうにつれて、フィエロの生き方はただの怠惰ではなく、心の深いところにある感情を隠しているという心境で歌うように心がけることが大切です。歌詞を見ながら「気にしていないふりをしながら、本当は理解してもらいたい、好いてもらいたいと思ったことはあるか?」と自分に問いかけて、フィエロの感情の理解度を高めてから取り組むのが良いです。