第3回 英語の“流れ”を歌に乗せる ― シラブル・リンキング・リダクション
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英語の歌を聴いたとき、「発音がつながっていて、どこで区切られているのかわからない」と感じたことはありませんか?
その理由は、英語が**“音をつなげる言語”**だからです。どんなに発音が正確でも、単語ごとに区切ってしまうと音楽的な流れが失われます。今回はその“つながり”をつくる3つのキーワード――シラブル(音節)・リンキング(連結)・リダクション(省略) について解説します。
■1. シラブル(Syllable)― 英語のリズムの最小単位
シラブルとは、一拍として聞こえる音のかたまりのこと。
日本語の「音節」よりも感覚的で、呼吸のリズムに近い単位です。たとえば「ボーカル」という言葉。日本語では「ボー・カ・ル」と3音に分かれますが、英語では “vocal” で2音(vo・cal)。この差こそ、英語のリズム感を生む根本的な要素です。
日本語はすべての音が均等なテンポで並ぶ“モーラ言語”。対して英語は、強弱と長短でリズムを刻むストレスタイミング言語。つまり、「どの音節にアクセントを置くか」で言葉全体のノリが変わります。
たとえば “beautiful”。
日本語だと「ビューティフル(4音)」、英語では「bjuː-tə-fəl(3音節)」。頭の「bjuː」にアクセントを置いて「ビューティフォー」。この“強弱のリズム”を体で感じながら歌うことが、英語らしいフレージングへの第一歩です。
■2. リンキング(Linking)― 音と音を自然につなげる
英語は単語の間を「つなげて発音する」言語です。これを リンキング(linking) と呼びます。単語をひとつずつ区切るのではなく、前後の音を滑らかに連結させます。
たとえば次の例を見てください。
- Can I go? → 「キャナイゴウ」
- Give up → 「ギヴァップ」
- Think about it → 「シンカバウディッ」
“Can I” が「キャナイ」になるのは、子音で終わる “can” と母音で始まる “I” がつながるからです。このつながりを意識して練習すると、単語単位の発音練習から「流れの発声」へと進化します。
洋楽を歌う際には、歌詞カードを見ながら“つながる箇所に印をつける”のがおすすめ。たとえば “Let it be” は「レット・イット・ビー」ではなく「レリッビー」。この一体感が、英語の柔らかいフローを作り出します。
■3. リダクション(Reduction)― 弱くする、時に消す勇気
リンキングと並んで重要なのが、リダクション(音の弱化・脱落)。英語はすべての音を同じ強さで発音しません。むしろ、言いやすさを優先して音を省略することが自然なリズムを作ります。
日本語では「全部の音を丁寧に言う」ことが特徴ですが、英語では「つながりの中で削る」ことが美しさ。つまり、“削ること”が表現力になる言語なのです。
■4. Let It Beで体感する英語の流れ
ここでビートルズの名曲 “Let It Be” を例に見てみましょう。
When I find myself in times of trouble, Mother Mary comes to me…この一文の中だけでも、いくつものリンキングとリダクションが起きています。
- When I → “ウェナイ” (n と I がつながる)
- find myself → “ファインマイセルフ” の d がほぼ脱落
- times of trouble → “タイムゾ(ブ)トラボー” (of が弱化)
- comes to me → “カムスミー” (t が弱化し s と m がつながる)
単語を区切って読むと不自然になりますが、この“音の連なり”を感じて歌うと、フレーズが一気に滑らかになります。歌詞カードにリンキングの箇所を赤、リダクションを青でマークしてみると、英語の歌が「どれだけ省略と連結の連続でできているか」が一目でわかるでしょう。
■5. カタカナを脱して“聴く”練習を
カタカナで音を当てはめようとすると、英語特有のリズムは再現できません。カタカナを読むとき、私たちは無意識にすべての音を均等に言おうとしてしまうからです。代わりに、耳でリズムを覚えること。
おすすめは、「一文を区切らずに聴き取る」練習。フレーズ単位で何度も聴き、口の形と呼吸のタイミングを真似します。聞こえない部分があっても気にしない。むしろ「聞こえない音こそリダクション」だと意識するだけで、リスニング力も格段に上がります。
■6. “英語で歌う”という表現
洋楽を英語のまま歌うということは、単に発音を真似するだけではなく、英語という言語の呼吸に身を委ねることです。
息をためて破裂させ、つなげ、そして時に脱力して音を落とす――。この「緊張と緩和のリズム」が、英語の歌の魅力を作ります。最初は難しく感じても、フォニックス(第1回)→発音筋トレ(第2回)→音の流れ(今回)と段階を踏めば、確実に身体が慣れていきます。
英語の歌は、“筋肉・耳・呼吸”を使うトータルなボーカルトレーニングです。単語を覚えるよりも、「音の流れを身体で覚える」意識を持ちましょう。
■まとめ ― 流れを掴むことが、表現を自由にする
英語の歌は、音の削ぎ落としとつながりを特徴としています。シラブルでリズムを感じ、リンキングで息をつなぎ、リダクションで軽やかに抜ける。
その流れの中に、自分の声がどう乗るかを探すことが“洋楽を歌う”という行為です。一語一語にとらわれず、フレーズ全体を“波のように”捉えてみてください。
息と音が一体化した瞬間、あなたの英語の歌は見違えるほど自然に響くはずです。
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