ミュージカルは意外と知らないことばかり ~見えない技術が支えるミュージカルの舞台~
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ミュージカルの舞台では、俳優が自然に歌い、踊り、語りながら物語を進めていきます。しかしその裏側には、客席からは見えにくい多くの音響技術と工夫が隠されています。俳優が装着しているマイクやスピーカーの配置は、舞台の完成度を左右する極めて重要な要素です。
舞台はライブで進行するため、すべてが一度きりの真剣勝負。録り直しはできず、その瞬間に響いている音がすべてです。そんな緊張感のある現場を支えているのが、緻密な音響設計と運用なのです。
マイクの位置に「正解」はない?
俳優がつけるワイヤレスマイクの位置について、実は「ここが絶対の正解」という場所はありません。「最終的によい音で鳴っているか」という結果がすべて、という考え方が基本にあります。
現在では小型のヘッドセットや、顔の横にテープで固定するタイプが主流ですが、その位置は音響スタッフと俳優が相談しながら決めていきます。一般的には頬骨付近が無難とされていますが、声質によって微調整が欠かせません。「高音は少し離れていても拾いやすいが、低音をしっかり響かせるには口元に近づける」といった具合です。舞台稽古では、「マイクをあと1センチ口元へ寄せて」といったミリ単位の調整が繰り返されます。
俳優は自分の声を客席と同じようには聞けない
意外かもしれませんが、ミュージカル俳優は自分の声を客席と同じバランスで聞くことはできません。オーケストラや音源が大音量で鳴り響く中で、自分の声がどれくらい客席に届いているかを正確に判断するのは難しいため、基本的には音響スタッフを100%信頼して演じることになります。
音響スタッフは、指先の操作(フェーダー操作)ひとつで俳優の声を支え、感情の昂ぶりに合わせて音量を補います。優れた技術者が担当すると、俳優は「まるで自分の歌が急に上手くなった」と錯覚するほど歌いやすくなることもあるといいます。舞台の感動は、まさに演者と裏方の「共同作業」で作られているのです。
スピーカーとの「距離感」も技術のうち
劇場のスピーカーは、客席に向けられているだけではありません。舞台袖や幕の内側、ときには床にも仕込まれています。
俳優は、自分の立ち位置によって音の聞こえ方が変わることを計算して動かなければなりません。例えば、特定のスピーカーの真上で歌うと音が回って(ハウリングして)しまうため、それを避けるといった細心の注意も必要になります。
決められた枠組みの中にある「自由」
舞台にはマイクの制約や音響のルールなど、多くの「決まり事」があります。
決められたテンポやメロディーの中でも、俳優同士のやり取りやその瞬間の感情によって、同じ作品でも毎回異なるニュアンスが生まれます。こうした「計算された技術」と「生身の感情」が重なり合う瞬間こそが、ミュージカルの醍醐味です。
普段何気なく観ている舞台も、少し視点を変えてみると、そこには驚くほど多くの工夫が詰まっています。舞台の裏側に思いを馳せることで、ミュージカルの楽しみ方はさらに深く、豊かなものになっていくはずです。









