【ミュージカル曲コラム】『Her Voice/あの声』リトルマーメイド 歌い方・歌詞解説・曲の意味
【曲名】Her Voice/あの声
【作品名】リトルマーメード(ミュージカル舞台版)
【作品について】
ミュージカル版『リトルマーメイド』は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話と1989年のディズニー映画をもとに、舞台用に再構成された作品です。脚本はダグ・ライト、音楽はアラン・メンケン、作詞は映画版楽曲をハワード・アシュマン、舞台版の追加楽曲・追加歌詞をグレン・スレイターが担当しています。ブロードウェイ版は2008年に開幕しました。
舞台版の特徴は、映画の名場面を再現するだけでなく、登場人物の内面を歌によってより丁寧に補強している点にあります。アリエルが人間の世界に来たあとの喜びを歌う “Beyond My Wildest Dreams” では、夢見ていた世界に実際に触れた高揚感が表現されます。また、エリック王子の “Her Voice” では、彼がアリエルの姿ではなく「声」に惹かれていることが明確になり、アリエルが声を失う選択の重みがより強くなります。さらに “If Only” では、アリエル、エリック、トリトン、セバスチャンたちの思いが重なり、それぞれが「もしも伝えられたら」「もしも分かり合えたら」という感情を抱えていることが示されます。
このように舞台版『リトルマーメイド』は、映画版よりも登場人物の感情を言葉と音楽で丁寧に説明する構造を持ち、アリエルの成長、親子の葛藤、そして「声」をめぐるドラマをより深く感じられる作品になっています。
[楽曲について]
“Her Voice” は、ミュージカル版『リトルマーメイド』でエリック王子が歌うソロ曲です。この曲は、エリックが嵐の海で命を救われたあと、自分を助けてくれた「声の主」を探し求める場面で歌われます。彼は、自分を救った相手の顔も名前も知りません。記憶に残っているのは、ただひとつ、美しい声だけです。そのためこの曲は、目の前の相手に愛を告白する歌ではなく、記憶の中に残る声を頼りに、まだ見ぬ相手を探し続ける歌だと言えます。
映画版では、アリエルの内面は “Part of Your World” によって強く印象づけられますが、エリック王子の心情が歌で詳しく語られる場面は多くありません。しかし舞台版では、“Her Voice” が加わることで、エリックの心の動きがより明確になります。彼はただ「美しい女性」を探しているのではなく、海の向こうから自分を呼んだように感じた声に心を奪われています。その声がなぜ忘れられないのか、もう一度出会うことはできるのか。そうした思いが、この曲全体を動かしています。
この曲によって、エリックは物語の中でより立体的な人物になります。彼は受け身の王子ではなく、自分の心に残った声を追い求める人物として描かれます。アリエルだけがエリックに憧れているのではなく、エリックもまた、まだ名前も姿も知らない相手に強く惹かれていることが、この曲によって伝わります。
さらに重要なのは、エリックが惹かれているものが「姿」ではなく「声」であるという点です。タイトルが “Her Face” ではなく “Her Voice” であることは、この曲の本質をよく表しています。ところが物語の後半で、アリエルは人間の世界へ行くために、その声をアースラに差し出してしまいます。つまり、エリックが探しているものこそ、アリエルが失ってしまうものなのです。
ここに、この曲が持つ大きなドラマ上の皮肉があります。“Her Voice” があることで、アリエルが声を失う選択の重みはより強くなります。エリックにとって唯一の手がかりである声を、アリエル自身が手放してしまうからです。その結果、二人は近くにいながらも、なかなか本当の意味で結びつくことができません。このすれ違いが、舞台版『リトルマーメイド』の恋愛ドラマに深みを与えています。
【歌い方・ポイント】
“Her Voice” を歌うときに大切なのは、声量で押して聴かせるのではなく、「記憶の中に残る声を追いかけている」感覚を持つことです。エリックは、目の前の相手に愛を告白しているのではありません。まだ姿も名前もわからない“声の主”を探しています。そのため、歌唱ではロマンティックに響かせるだけでなく、探している感覚、憧れ、そして少しずつ確信へ近づいていく心の変化を丁寧に表現する必要があります。
冒頭は、最初から感情を強く出しすぎないことが大切です。「愛している」と断定するのではなく、「あの声は何だったのだろう」「なぜ忘れられないのだろう」と、自分の中に残っている記憶を確かめるように歌い始めます。最初から大きく歌いすぎると、後半の盛り上がりが作りにくくなります。息を流しながら、音を遠くへ置くように歌うことで、曲全体のドラマが自然に立ち上がります。
また、この曲では「声を探している視線」を持つことが重要です。目の前の誰かに向かって歌うのではなく、海の向こう、風の中、記憶の奥にある声を探している感覚です。視線を近くに落としすぎず、少し遠くを見ることで、曲の世界観が生まれます。フレーズの終わりもすぐに切らず、声が波や風の中に消えていくように余韻を残すと、エリックの心の揺れが伝わりやすくなります。
発声面では、母音を広げすぎないことが大切です。高音や伸ばす音で口を横に広げすぎると、響きが浅くなり、叫びに近く聞こえてしまいます。母音は縦に保ち、口の中に奥行きを作る意識を持ちます。声を前に飛ばしながらも、響きは柔らかく保ち、「強く押す」のではなく「遠くへ届かせる」感覚で歌うとよいです。
高音も、力任せに出さないことが大切です。エリックは王子であり、品のある人物です。高音は怒鳴るのではなく、遠くの相手に呼びかけるように響かせます。技術的には、胸声だけで押し上げず、ミックスの感覚を使うと安定します。低音から中音は自然な話し声に近く、上に行くにつれて響きを前方に集めると、無理なくロマンティックな高音になります。
さらに、“Her Voice” は旋律が大きく流れる曲なので、フレーズを短く切らないように注意します。ブレスも「苦しいから吸う」のではなく、感情が変わる場所で吸うように考えます。記憶をたどる息、何かに気づく息、もう一度探そうとする息というように、ブレスそのものを芝居にすると、歌に深みが出ます。
曲全体の流れとしては、前半はやわらかく少し不確かに、中盤は声の記憶がだんだん鮮明になるように、後半は「あの声の主を必ず見つけたい」という意志がはっきり見えるように変化させます。同じテンションで歌い続けるのではなく、夢のような記憶から確信へ向かう流れを作ることが、この曲のドラマを生みます。
「Her Voice(あの声)」日本語歌詞のオリジナル楽譜
モア東京ボーカル教室では、ミュージカル『リトルマーメイド』より「Her Voice(あの声)」の日本語歌詞付きオリジナル楽譜をご用意しています。
舞台版で歌われるエリック王子のソロ曲を、レッスンで実際に歌いたい方、発表会や舞台で取り上げたい方に向けて、歌いやすいキー設定と日本語の語感を大切にした訳詞でお届けします。
音取り動画でレッスン前の予習・自宅練習に
モア東京ボーカル教室では、ミュージカル楽曲の音取り動画をYouTubeチャンネルにて公開しています。レッスン前の予習や自宅練習にお役立てください。










