音楽&歌に役立つコラム

コラムTOPに戻る

歌詞は“文学”ではなく『音楽』です —— 職業作詞家が語る本質(第1回)

私たちは普段、歌詞を「読むもの」として受け取りがちです。歌詞カードを目で追い、そこに込められたメッセージや物語性を探ろうとします。しかし、講座で語られた職業作詞家の言葉は、その前提を根本から覆すものでした。

 

「歌詞とは、文学ではなく『音楽』」
「歌詞は目で読むのではなく、耳に届く“音”」

この一言に、作詞という仕事の核心が集約されています。

 

意味やストーリーよりも、音としての心地よさ。文章の美しさよりも、声に出したときの響き。職業作詞家が見ている歌詞の世界は、一般の「文字として読む歌詞」とは全く異なる場所にあるのです。


歌詞の中心は「意味」ではなく「音」です

 

講座ではまず、歌詞の役割について明確な説明がありました。
一般のリスナーは、歌詞=物語・感情・世界観と捉えがちですが、プロはそこだけを見ていません。むしろ、優先するのは別の要素です。

  • メロディーを“気持ちよく”響かせることが最優先

 

作詞家が最初に考えるのは、メロディーが最も自然で美しく聞こえる言葉はどれかという点です。

 

  • バラードでは柔らかく流れる母音を中心にする
  • アップテンポでは破裂音や跳ねる音を配置する
  • 子音が重なりすぎないように調整する
  • 歌手が発声しやすい音を選ぶ

といった「音のデザイン」が、実は歌詞の土台になっています。

 

例えば、子ども番組のテーマ曲では、意味よりも音の楽しさを優先した例が多く見られます。

物語というより、**メロディーと一緒に跳ねる“音の遊び”**として作られてることもあります。


歌詞は「声に出して」確認するもの

 

特に強調されていたのが、次の言葉です。

「歌詞は、音で読む文章」

 

詩や文章は目で読みますが、歌詞は音として耳に届いたときに初めて成立します。

 

そのため、作詞家は書いたものを必ず声に出し、次の点を確認します。

  • 発音したときに気持ちよく流れるか
  • 子音が硬すぎて歌いづらくないか
  • 母音が続きすぎて間延びしていないか
  • メロディーの跳ね方、乗り方に合っているか

どれほど字面が美しくても、声に出したときに違和感があれば、それはもう適切な歌詞ではありません。逆に、意味が薄くても音が気持ちよければ、作詞家は迷わずそちらを選びます。発音した瞬間の快感こそが、歌詞の正体なのです。


作詞家に求められるのは“文章力”ではなく“編集力”です

 

講座の中で、作詞家がよく誤解される点についても触れられていました。

「作詞家は文章が上手いわけではありません。より編集力に長けています」

 

この「編集力」とは、次のような技術を指します。

  • メロディーの音数に言葉をぴったり当てはめる
  • 言葉の響きを整えて音の流れを最適化する
  • 伝える情報を削ぎ落とす
  • 歌手が歌いやすい音に調整する
  • 全体の構成を“音楽として”整理する

つまり作詞とは、「文章を書く作業」ではなく、
**“
音・意味・リズムを最適化して並べ替える編集作業”**なのです。だからこそ、プロの歌詞はシンプルでありながら、楽曲に完璧にフィットします。書くというより、削り、整え、磨き上げていく仕事だと言えます。


一般リスナーが持つとよい“歌詞の新しい見方”

 

講座で語られた知見は、一般の私たちにとっても、音楽の聴き方を大きく変えるものです。

  • 歌詞カードではなく“発音された音”に注目する

母音の並び方、子音の跳ね方、息の抜け方など、音の質感に耳を向けるだけで、曲の魅力が立体的に理解できるようになります。

 

  • 意味の浅い歌詞を“劣っている”と思わない

意味を薄くしてでも音を優先することは、プロの合理的な判断です。「音が気持ちいい」というだけで、歌詞は役割を十分に果たしています。

 

  • 歌いにくさが排除されていることに気づく

作詞家は、歌い手が自然に声を出せる言葉を探し続けています。その裏側を意識すると、歌の滑らかさを別の視点で楽しめます。

 

  • メロディー×言葉の関係に注目する

曲によっては意味よりも音が優先される一方で、バラードでは響きと意味が同時に成立するよう緻密に設計されています。その「設計図」を探るように聴くと、楽曲の理解が一段深まります。


歌詞は“文学”ではなく『音楽』です —— 職業作詞家が語る本質(第1回)

 

メロ先と詞先 ——「どちらが先か」でこんなに変わる作詞の世界(第2回)

 

訳詞とミュージカル作詞 —— 言葉と音楽が衝突するとき、作詞家は何を守るのか(第3回)

この記事をシェア!

PAGETOP