歌詞は“文学”ではなく『音楽』です —— 職業作詞家が語る本質(第1回)
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私たちは普段、歌詞を「読むもの」として受け取りがちです。歌詞カードを目で追い、そこに込められたメッセージや物語性を探ろうとします。しかし、講座で語られた職業作詞家の言葉は、その前提を根本から覆すものでした。
「歌詞とは、文学ではなく『音楽』」
「歌詞は目で読むのではなく、耳に届く“音”」
この一言に、作詞という仕事の核心が集約されています。
意味やストーリーよりも、音としての心地よさ。文章の美しさよりも、声に出したときの響き。職業作詞家が見ている歌詞の世界は、一般の「文字として読む歌詞」とは全く異なる場所にあるのです。
■ 歌詞の中心は「意味」ではなく「音」です
講座ではまず、歌詞の役割について明確な説明がありました。
一般のリスナーは、歌詞=物語・感情・世界観と捉えがちですが、プロはそこだけを見ていません。むしろ、優先するのは別の要素です。
- メロディーを“気持ちよく”響かせることが最優先
作詞家が最初に考えるのは、メロディーが最も自然で美しく聞こえる言葉はどれかという点です。
- バラードでは柔らかく流れる母音を中心にする
- アップテンポでは破裂音や跳ねる音を配置する
- 子音が重なりすぎないように調整する
- 歌手が発声しやすい音を選ぶ
といった「音のデザイン」が、実は歌詞の土台になっています。
例えば、子ども番組のテーマ曲では、意味よりも音の楽しさを優先した例が多く見られます。
物語というより、**メロディーと一緒に跳ねる“音の遊び”**として作られてることもあります。
■ 歌詞は「声に出して」確認するもの
特に強調されていたのが、次の言葉です。
「歌詞は、音で読む文章」
詩や文章は目で読みますが、歌詞は音として耳に届いたときに初めて成立します。
そのため、作詞家は書いたものを必ず声に出し、次の点を確認します。
- 発音したときに気持ちよく流れるか
- 子音が硬すぎて歌いづらくないか
- 母音が続きすぎて間延びしていないか
- メロディーの跳ね方、乗り方に合っているか
どれほど字面が美しくても、声に出したときに違和感があれば、それはもう適切な歌詞ではありません。逆に、意味が薄くても音が気持ちよければ、作詞家は迷わずそちらを選びます。発音した瞬間の快感こそが、歌詞の正体なのです。
■ 作詞家に求められるのは“文章力”ではなく“編集力”です
講座の中で、作詞家がよく誤解される点についても触れられていました。
「作詞家は文章が上手いわけではありません。より編集力に長けています」
この「編集力」とは、次のような技術を指します。
- メロディーの音数に言葉をぴったり当てはめる
- 言葉の響きを整えて音の流れを最適化する
- 伝える情報を削ぎ落とす
- 歌手が歌いやすい音に調整する
- 全体の構成を“音楽として”整理する
つまり作詞とは、「文章を書く作業」ではなく、
**“音・意味・リズムを最適化して並べ替える編集作業”**なのです。だからこそ、プロの歌詞はシンプルでありながら、楽曲に完璧にフィットします。書くというより、削り、整え、磨き上げていく仕事だと言えます。
■ 一般リスナーが持つとよい“歌詞の新しい見方”
講座で語られた知見は、一般の私たちにとっても、音楽の聴き方を大きく変えるものです。
- ① 歌詞カードではなく“発音された音”に注目する
母音の並び方、子音の跳ね方、息の抜け方など、音の質感に耳を向けるだけで、曲の魅力が立体的に理解できるようになります。
- ② 意味の浅い歌詞を“劣っている”と思わない
意味を薄くしてでも音を優先することは、プロの合理的な判断です。「音が気持ちいい」というだけで、歌詞は役割を十分に果たしています。
- ③ 歌いにくさが排除されていることに気づく
作詞家は、歌い手が自然に声を出せる言葉を探し続けています。その裏側を意識すると、歌の滑らかさを別の視点で楽しめます。
- ④ メロディー×言葉の関係に注目する
曲によっては意味よりも音が優先される一方で、バラードでは響きと意味が同時に成立するよう緻密に設計されています。その「設計図」を探るように聴くと、楽曲の理解が一段深まります。
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