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メロ先と詞先 ——「どちらが先か」でこんなに変わる作詞の世界(第2回)

作詞には大きく分けて二つの入り口があります。

 

ひとつは メロディーを先に受け取り、そこに言葉を“はめていく”メロディー先行(メロ先)。もうひとつは 先に歌詞を作り、その後に作曲家がメロディーをつける詞先行(詞先) です。

 

この二つの違いが、作業工程だけでなく、歌詞の質感やメロディの作られ方にどれほど影響するか。本コラムでは、その内容を一般の読者にも分かりやすくまとめ、さらに私たちリスナーが「どのように聴けば理解が深まるのか」という視点まで踏み込みます。


メロ先:音に“寄り添いながら”言葉を探す作業

 

メロ先では、まず作詞家の手元にメロディが届きます。音符、リズム、フレーズの切れ目、跳ね方など、曲の世界観がすでに決まった状態からスタートします。

 

作詞家は、その中に言葉を当てはめていきます。

 

メロ先の特徴

  • 音符の数に合わせて、言葉数を調整する
  • 跳ねるメロディには破裂音や明るい語感を入れる
  • 流れるメロディには母音を多くして柔らかさを出す
  • 発音が難しい音の連続は避ける
  • 意味よりサウンドが優先されることが多い

言葉は、意味よりもメロディに乗ったときの跳ねる音を優先して選ばれています。早口で歌うパートでは、ほとんど「意味のある文章」よりも、「音の連なり」が重視されていることも印象的。

 

メロ先の魅力

  • メロディと歌詞が合体したときのスピード感
  • 聴き手が無意識に感じる“音の快感”
  • 語感が音楽そのものとして記憶に残る

メロ先は、音楽としての歌詞の強さが最も生きる手法だと言えます。


詞先:楽曲の“設計図”をゼロから作る高度な作業

 

一方で詞先行とは、先に歌詞を作り、その後で作曲家がメロディをつける方法です。作詞家は、次のような工程を一手に背負います。

 

詞先の作業

  • Aメロ・Bメロ・サビの位置を設計する
  • 情景・主題・展開の構成を考える
  • どこに緩急をつけるかを決める
  • タイトルから曲全体の方向性を作る
  • 2番以降もメロディにハマるよう言葉のアクセントを揃える

「最近の作詞家は詞先が苦手な人も多い」なぜなら詞先は、ゼロからすべてを生み出す力が求められる最も高度な作業だからです。

 

詞先で重要なこと

  • メロディが乗っていなくても“音楽的なリズム”を作る
  • 歌ったときの発音の気持ちよさをイメージする
  • 2番の言葉のアクセントまで想定して書く
  • 作曲家との呼吸が合わないと成立しない

メロ先・詞先でまったく違う“歌詞の発想”

 

講座で語られた中でも特に興味深かったのは、作詞家がメロ先と詞先でまったく違う思考を使うという点。

 

メロ先の思考

  • 「ここは跳ねる音にしたい」
  • 「破裂音を入れてメロを立たせたい」
  • 「意味より響き」
  • 「音の快感を優先」

これは、曲の勢いに乗って言葉を短く切り、テンポよく連ねていく作り方です。

 

詞先の思考

  • 「この言葉はどこで切れるべきか」
  • 「発音したときに気持ちよいか」
  • 「サビはどの高さにくると効果的か」
  • 「2番も音が崩れないようにする」

こちらは、楽曲全体の骨格を組み立てる作業に近く、構成力と発想力が必要とされます。どちらが難しいというより、必要とされる能力がまったく違うため、作詞家の得意・不得意がはっきり分かれる。


作曲家との相性が、詞先では特に重要

 

詞先で書かれた歌詞が、作曲家の手によってどんなメロディになるかは、二人の相性に大きく左右される。作詞家の頭の中で鳴っているメロディと、作曲家がつけてくるメロディが一致していると、作品全体が驚くほど自然に仕上がります。

 

逆に、作曲家と呼吸が合わない場合、

  • イントネーションが合わない
  • 言葉が正しく聞こえない
  • 音がはまりきらない

といった問題が起きてしまうため、詞先は一段と難易度が高くなります。信頼している作曲家との仕事では「何をぶつけても素晴らしい形にしてくれる」という例が語られており、職業作詞家の世界における人との相性”が重要。


一般のリスナーが「より深く楽しむ」ための視点

 

メロ先・詞先を理解すると、普段聴いている曲にも新しい発見が生まれます。

  • メロ先の曲は“音の連なり”に注目すると楽しい

意味が薄くても、語感だけで成立している理由がわかります。

 

  • 詞先の曲は“言葉の構造”に注目すると魅力が見える

1番と2番でアクセントが揃っているか、サビへの流れが自然かなど、作詞家の設計が聴こえてきます。

 

  • 曲を聴くとき「どちらが先か?」を推測してみる
  • 響き優先 → メロ先の可能性が高い
  • 言葉の整合性が高い → 詞先であることが多い

このような視点を持つと、ただ聴き流していた曲がどのような工程で生まれたのかまで感じられ、音楽体験がより豊かになります。


まとめ —— 作詞は「音」と「構造」を扱う高度なもの

 

メロ先・詞先の違いは、単に順番の問題ではなく、曲そのものの成り立ちを決める根本的な手法の違いです。

  • メロ先は、音に合わせて言葉を最適化する“音の工芸”
  • 詞先は、楽曲の構造をゼロから生み出す“設計技術”

この二つの手法を理解することで、私たちが日常的に触れている歌詞や音楽は、より立体的に感じられるようになります。


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